弁護士のつぶやき〜第4回

「登りきる」

                   

弁護士 砂川辰彦

憲法81条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と定め、裁判所に違憲審査権を認めています。なお、同条の規定ぶりから違憲審査権の主体は最高裁判所のみに与えているようにみえますが、下級裁判所もまた違憲審査権を行使できるとされています(最大判昭和25年2月2日)。

原発メーカー訴訟では、原子力損害の賠償に関する法律に定められている「責任集中制度※」規定(4条1項、同条3項)が、憲法上保障されているノー・ニュークス権(原子力の恐怖から免れて生きる権利)等を侵害していると主張しています。法令が違憲とされた最高裁判決としては、尊属殺重罰規定、議員定数不均衡、薬局開設距離制限、森林法共有林分割制限、郵便法賠償責任免除・制限、在外日本国民選挙権制限、準正要件付加による国籍取得区別、嫡出性の有無による法定相続分区別とありますが、その数はわずかしかありません。

これまでの法令違憲に関する最高裁判決の数からも明らかなとおり、本訴訟は高く険しい山を登ろうとするものです。責任集中制度規定がある中、福島第一原発事故が起こり、事故による被害は未だ収束していません。責任集中制度規定が基本的人権を侵害している限り、同規定はもはや違憲であると裁判所を説得し、高く険しい山を登りきりましょう。

※原発事故による原子力損害について賠償責任を負う原子力事業者以外の者は一切の責任を負わないとする制度のこと。

 

弁護士のつぶやき〜第3回

  

「高知の林です ~南風にのって~」

 

林 良太(高知護士会))

初めまして、高知で弁護士をしている林と申します。期は新63期で、この弁護団の団長である島さんと高知で一緒に修習しました。私が弁護団に加えていただいたのはそのご縁です。私は、島さんや弁護団の他の先生方のように、原発被害の最先端には関わっているわけではなく、そもそも福島やそれ以外の震災被災地に出かけたこともなく、ただ田舎でのんびりと弁護士をやっております。

先ほど述べたように、私は島さんと同期同クラス同修習地で修習いたしました。島さんとは、共にロックバンドをやっていたという経歴もあって、出会ってすぐに何故か「バンドをやろう!」ということになり、それから10ヶ月ほど高知でバンド活動をするという全く予期しなかった修習生活を送りました。修習終了後、私は高知に残り、島さんはご存じのとおり東京でご活躍されています。

ここまで書いて唐突の告白なのですが、私は実は高知出身ではありません。奈良で生まれて奈良で育ちました。高知は、特段縁もゆかりもない土地です。

奈良は災害に強い土地です。地震、台風や降雪等幼いころから災害で困ったという経験は特段ありません。もちろん津波など来るはずもありません。そういう土地で育ったからなのか、私は災害に関してはあまり危機意識がありません。高知は南海トラフ大地震の発生が危惧されている土地ですが、「本当に来るのかな」程度にしか考えることが出来ないでいます。

それではもちろんいけませんが、なかなか地震を含めた災害に関して当事者意識が持てていないのも私の偽らざる現状です。

ただ、一つだけ、あの東日本大震災そして福島の原発事故によってもたらされた被害について私が強く思うところがあります。

私は、奈良の明日香村のすぐ近くで育ちました。私の原風景は、明日香村の美しい棚田です。飛鳥寺や石舞台といった旧跡にも何度行ったかわかりません。

今は―当たり前ですが―私は時間が許せば、故郷に帰ることができます。しかし、もし帰れなくなってしまったら? それは単なる悲しみや苦しみという言葉では表現できない痛みを味わうのではないかと思います。

故郷は人から絶対に奪ってはいけない存在です。決して奪ってはいけないものを奪う可能性のある怪物が原発です。

私は、原発関連の紛争に関しては微力を通り越してほぼ無力という大した役に立たない者ですが、何とか皆様についていけるように精進したいと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

弁護士のつぶやき〜第2回

「Rock & Law!」

奥山倫行(札幌弁護士会所属/55期)

私は55期の弁護士です。弁護士になって最初の5年弱は東京のTMI総合法律事務所に勤務していましたが、その後、故郷である札幌の地で同期の安藤誠悟弁護士と共にアンビシャス総合法律事務所を設立し、日々の業務を行っています。クライアントは企業や事業者が殆どで、いわゆる企業法務の分野を中心に日々の業務を行ってきました。

私が原発メーカー訴訟の弁護団に参加させて頂いたのは、2013年に弁護団長の島昭宏先生からお声掛け頂いたのがきっかけでした。以前から、レピッシュのMAGUMIさんから何度か「紹介するから」というお話を頂いており、私もずっと島先生にお会いしたいと願っていました。その願いが叶ったのが恵比寿の「たつや」(焼き鳥)でした。そのとき、どのようなお話をさせて頂いたかは、お酒と時間の経過によって、今では多少記憶が薄らいでしまっていますが、大好きなROCKの話以外にも、弁護士として取り組むべき活動や運動の話をさせて頂いた記憶があります。

私は島先生のようにミュージシャンとして活動してきたわけではありませんが、昔からとにかくROCKが大好きで、そのような趣味が高じて、2009年から「弁護士奥山倫行のロック裁判所」(現在は全国49のコミュニティFM局で放映中)というタイトルのラジオ番組を担当させて頂いたり、また、昨年の12月には同番組の中で紹介したエピソードを纏めた「ロックで学ぶ!リーガルマインド」(花伝社/2014年)という書籍も出版させて頂いたりしてきました。

  

島先生から原発メーカー訴訟の弁護団への参加についてお話を頂いたときには、正直なところ、僅かな躊躇がありました。弁護士になってからずっと企業法務の分野の業務を行ってきましたので、原発メーカー訴訟の弁護団に参加することが日々の業務に影響があるのではないかという考えが浮かんだからです。ただ、そのような迷いを一瞬で吹き飛ばしてくれたのは、島先生の澄んだ瞳と、情熱的な言葉の数々でした。一見、無縁のようなROCKと法律には、実は沢山の共通点があります。その1つがROCKにも法律にも「人々が幸せに生きるための知恵」が溢れているということです。原発メーカー訴訟の道のりは決して楽ではないかもしれませんが、弁護士として、いやそれ以前にこの国に住み暮らす1人の人間として、立ち向かうべき大きな不正義がそこにあります。1人でも多くの人々が幸せに生きるために、微力ではございますが、北の大地から参加させて頂きます。引き続きどうぞ宜しくお願いいたします。

 

 

弁護士のつぶやき~第1回

「半人前扱いでいいですか?」

弁護士 吉田理人

11月21日衆議院が解散され、12月14日に衆議院議員選挙が行われることになりました。今回の解散総選挙は、何のための解散総選挙なのか、その意義がわからないという声をよく聞きます。しかし、その意義がわからなくても、総選挙は、国民の意思を明らかにするための重要な手続であることには変わりません。是非、皆さんの思うところを投票行動で示していただけたらと思います。

選挙は、国民の意思を明らかにするための重要な手続ですが、この国会議員選挙という重要な手続について、「違憲状態である」とする判決を、最高裁判所が近年何度も出しているということをご存知の方も多いと思います。

衆議院解散後の11月26日にも、最高裁判所が、2013年に行われた参議院議員選挙が違憲状態にあったとする判決を言い渡しました。違憲状態とされる根拠は投票価値の不平等な状態にあります。

選挙は、民主主義の根幹となる手続であり、投票価値の平等は憲法の保障する国民の重要な権利のひとつです。したがって、このような違憲状態は早急に是正されなければなりません。

現在、衆議院議員選挙では、投票価値の最大格差が、2倍を超える場合には違憲状態になると一般に考えられています。そして、今回12月14日に投開票予定の衆議院議員選挙の投票価値の最大格差が2倍を超えるということは既にマスメディアでも報道されています。したがって、今回の選挙でも、選挙無効を求める訴訟が起こされれば、最高裁判所が、違憲状態の判決をすることは、確実視されており、場合によっては、さらに踏み込んで、選挙無効の判決が下されることもあるかもしれません。

ところで、投票価値の格差とはなんでしょうか? これは、選出議員1人あたりの有権者数の差を意味します。小選挙区制の選挙の場合、1選挙区から選出される議員は1人ですから、その選挙区内の有権者数が20万人の選挙区と、40万人の選挙区を比較した場合、40万人の選挙区の有権者のもつ1票の価値は20万人の選挙区の有権者の1票の価値の半分しかないということになります。このように選出議員1人あたりの有権者数が多い選挙区の有権者数が、少ない選挙区の有権者数の2倍を超えている状態が、「投票価値の格差が2倍以上」と言われている状態なのです。

格差が2倍以上といわれると少し分かりにくいかもしれませんが、格差が2倍以上ということは、有権者数の多い選挙区の有権者の投じた1票は、少ない選挙区の1票の半分以下の価値しかないということです。すなわち、語弊を恐れずにいうのであれば、ある地域に住んでいるというだけで、国から「半人前」扱いされてしまっている人々がいるということなのです。

このような不公平な状況はすぐにでも解消し、公平な選挙を実現して欲しいものですが、その選挙制度を改正するのは、選挙で選ばれる国会議員です。そこにこの問題のジレンマがあります。

国会議員は選挙で選ばれなければ職を失ってしまいます。したがって、落選のリスクがあることはしたくありません。公平な選挙を実現するために、現在の選挙区割の見直しを行えば、それまでと違う選挙区で戦わなければいけなくなってしまうかもしれませんし、それまで戦ってきた選挙区が拡大されそれまでと違う候補者と戦わなければならなくなるかもしれません。そのことによって落選の危険が高まるかもしれないのです。

国会議員も人の子ですから、このように自分の職がかかっていることに及び腰になってしまうのも無理からぬことでしょうか。でも、そんな個人の利益のために半人前扱いされる方はたまったものではありません。

国会議員には、個人の利益を越えて、公平な目で全国民のために選挙制度改革をして欲しいものです。 私も、公正な目をもつ候補者を探しだし、その方に投票したいと思っています。

最後に、先程もご説明したとおり、今回の選挙は後の裁判で選挙自体が無効とされる選挙区も出てくる可能性があります。選挙結果だけでなく、その後の裁判の結果にも注目してみてください。