弁護士のつぶやき~第1回

「半人前扱いでいいですか?」

弁護士 吉田理人

11月21日衆議院が解散され、12月14日に衆議院議員選挙が行われることになりました。今回の解散総選挙は、何のための解散総選挙なのか、その意義がわからないという声をよく聞きます。しかし、その意義がわからなくても、総選挙は、国民の意思を明らかにするための重要な手続であることには変わりません。是非、皆さんの思うところを投票行動で示していただけたらと思います。

選挙は、国民の意思を明らかにするための重要な手続ですが、この国会議員選挙という重要な手続について、「違憲状態である」とする判決を、最高裁判所が近年何度も出しているということをご存知の方も多いと思います。

衆議院解散後の11月26日にも、最高裁判所が、2013年に行われた参議院議員選挙が違憲状態にあったとする判決を言い渡しました。違憲状態とされる根拠は投票価値の不平等な状態にあります。

選挙は、民主主義の根幹となる手続であり、投票価値の平等は憲法の保障する国民の重要な権利のひとつです。したがって、このような違憲状態は早急に是正されなければなりません。

現在、衆議院議員選挙では、投票価値の最大格差が、2倍を超える場合には違憲状態になると一般に考えられています。そして、今回12月14日に投開票予定の衆議院議員選挙の投票価値の最大格差が2倍を超えるということは既にマスメディアでも報道されています。したがって、今回の選挙でも、選挙無効を求める訴訟が起こされれば、最高裁判所が、違憲状態の判決をすることは、確実視されており、場合によっては、さらに踏み込んで、選挙無効の判決が下されることもあるかもしれません。

ところで、投票価値の格差とはなんでしょうか? これは、選出議員1人あたりの有権者数の差を意味します。小選挙区制の選挙の場合、1選挙区から選出される議員は1人ですから、その選挙区内の有権者数が20万人の選挙区と、40万人の選挙区を比較した場合、40万人の選挙区の有権者のもつ1票の価値は20万人の選挙区の有権者の1票の価値の半分しかないということになります。このように選出議員1人あたりの有権者数が多い選挙区の有権者数が、少ない選挙区の有権者数の2倍を超えている状態が、「投票価値の格差が2倍以上」と言われている状態なのです。

格差が2倍以上といわれると少し分かりにくいかもしれませんが、格差が2倍以上ということは、有権者数の多い選挙区の有権者の投じた1票は、少ない選挙区の1票の半分以下の価値しかないということです。すなわち、語弊を恐れずにいうのであれば、ある地域に住んでいるというだけで、国から「半人前」扱いされてしまっている人々がいるということなのです。

このような不公平な状況はすぐにでも解消し、公平な選挙を実現して欲しいものですが、その選挙制度を改正するのは、選挙で選ばれる国会議員です。そこにこの問題のジレンマがあります。

国会議員は選挙で選ばれなければ職を失ってしまいます。したがって、落選のリスクがあることはしたくありません。公平な選挙を実現するために、現在の選挙区割の見直しを行えば、それまでと違う選挙区で戦わなければいけなくなってしまうかもしれませんし、それまで戦ってきた選挙区が拡大されそれまでと違う候補者と戦わなければならなくなるかもしれません。そのことによって落選の危険が高まるかもしれないのです。

国会議員も人の子ですから、このように自分の職がかかっていることに及び腰になってしまうのも無理からぬことでしょうか。でも、そんな個人の利益のために半人前扱いされる方はたまったものではありません。

国会議員には、個人の利益を越えて、公平な目で全国民のために選挙制度改革をして欲しいものです。 私も、公正な目をもつ候補者を探しだし、その方に投票したいと思っています。

最後に、先程もご説明したとおり、今回の選挙は後の裁判で選挙自体が無効とされる選挙区も出てくる可能性があります。選挙結果だけでなく、その後の裁判の結果にも注目してみてください。